『癌だましい』


 がん=死に至る病ではないけれど、それでもがんになるということは精神的な意味合いにおいて死刑宣告も同じなんだろうなと思います。以前生保のコールセンターで仕事をしていた時に、がん保険金の給付請求をしてきた男性と事務的なやりとりをしていたところ、ふと男性が「検診で要再検査になったからと深い考えもなしに病院に行ったら、肺がんになってしまった…」といったことを漏らしたのですが、かける言葉がありませんでした。


 でも、この『癌だましい』の主人公は「がんになった、かわいそうな人」という同情を一切拒否するような人物造形です。食べることだけが唯一の楽しみ、他の事はどれも満足にできないので職場の癌と呼ばれる程に。ところが、最後には彼女の猛烈な食欲に何かひれ伏したくなりました。見事です。

癌だましい

癌だましい